機動戦士ガンダムSEED DESTINY第44話「二人のラクス」感想。

いちいち全てに突っ込むのも面倒ですから、手短に。
まず第一に思ったのが、シンが思い浮かべたように、大量破壊兵器が発射されたのって間接的にはアークエンジェルのせいなのですよね。シンがああいう風に思うということはスタッフさんもそれを理解しているはずなのですが、アークエンジェルをどういう位置づけで描きたいのか一年近く経った今ですら見えてきません。なんで戦争をしようとするジブリールは逃がしておいて、ひとまず戦争を終わらせようとしている議長だけは執拗に討とうとするのですか。
ノートの走り書きだけで議長の思想を決め付けているということにはもはや突っ込みません。どうせそれが作中では正しいのでしょうから。しかしなぁ、「デスティニープランが嫌だから」という理由だけでプラントを犠牲にしてまで暴れまわっているようにしか、現行の描写では見えませんよ。具体的に自分たちがどうするべきかという方策すら持っていないことがラクスの台詞で言われましたし。こういう描写をされると最終的にもアークエンジェルが敵でないと締まらないと思うのですが、その気はなさそうですし、うーん、どういう風に持っていきたいのでしょうか。
そもそもプラントの惨状を見て何であんなに平然としているのですか、彼らは。超然的な雰囲気などいりませんから、きちんとキャラクターごとの感情の発露を描写していただきたいです。それが視聴者にとっても共感につながるのですから。
しっかしデスティニープラン、なんというか想像力がないなぁと思ってしまいます。人の力というのは意志の力ですし、これまでもたびたび議長が意志を重んじるような言動をしてきたように描写されています。そういう議長がこういうプランを採るかなぁ、そもそも、まともな大人がこういうプランを思いつくように考えているところにスタッフさん、想像力が欠けてるなぁ、と思います。
サブタイトルは「二人のラクス」となっていますが、レイが言う様にラクス・クラインが本物かどうかなんて、本当にどうでも良いのですよね。議長が代役を立てた理由も納得いくものですし、一概に議長に対して不信感を抱くような状況でない以上、タリアの言うようにザフトにとって直接の上司でないことは当然ですし、民衆にとっては良くも悪くもアイドルに過ぎない。コニールたちが結局ザフトを支持したように、どの陣営を支持するかはラクス・クラインに関係なく一人一人が決めることですから。
文句を言い続けてきましたが、一つ割と感心したのが、「この世界では敵の民間人を何の呵責もなく虐殺できる」という描写。むろんキャラクターによるでしょうが、ブルーコスモス頭目たるジブリールにとって、コーディネイターは「人間」ではなく「敵対種」です。通常の戦争ならば民間人虐殺などの「国際法違反」を行うと、やった方にとって戦局が不利になるばかりか、よしんば勝利したとしても先々まで悪行をやったということが残りますし、占領後の政策を考えると相手国の国民というのはむしろ大切にすべきものです。しかし、この世界において地球側の目的が「人類に仇成すコーディネイターを殲滅する」というものである以上、相手を同じ人間だと想定して形作られた、戦争の一般的概念は通用しないわけです。
むしろSEEDシリーズ、異星人ものロボットアニメの手法でナチュラルとコーディネイターの関係においてきっちりと描くべきであったと思います。SEEDシリーズというのは地球人と異星人が似たようなものである異星人ものと異なり、ナチュラルとコーディネイターの間に能力に絶対的な差があります。特にトップに立つような優秀な層の人々が、自分より圧倒的に能力の優れた相手たちに対して反感をいられずにいられましょうか。前作では「話し合いましょう」という、ナチュラルとコーディネイターの差異を考えないという点で何の解決にもなっていない結論で一応の解決が図られましたが、今作の冒頭でコーディネイターナチュラルの差異を踏まえ、「相手を許容できない人たち」をきっかけとして再び戦争が始まりました。私はこないだまでコーディネイターナチュラルの設定を、「どうやっても落とし所の付けられない問題のある設定」だと思っていましたが、だからこそちゃんとした落としどころをつけることが出来た場合、大きなカタルシスとなります。こういった見方で見ると、「戦争を陰で操っているのはロゴスであり、普通の人々は戦争をするまでには思っていない。ロゴスを叩くべきだ」というのは落としどころとして意外と悪くないのではと思います。ロボットアニメの文芸としても「ロゴス=巨悪」として、それを打倒するカタルシスをメインに据えたら結構面白い。主人公が戦争の悲惨さをよく実感しているだろうシンでありますからなおさらです。それが実際の作品では最終的なボスがロゴスではなく議長とデスティニープランという安易かつつまらない相手になりそうな勢い。ロゴスをボスとしてその上に大ボスとして議長を持ってくる。少年漫画的話数引き伸ばしの戦力インフレ手法に見えますが、安易というかクリエイティブでないというか、うーん。