装甲騎兵ボトムズ第01話「終戦」再視聴記。

以前からボトムズを再視聴して感想を書こうと考えていましたが、このたびの無料配信を機に実行に移すことにしました。とはいえ、思い入れが強すぎて逆に何を書けばいいかわからないという感じです。
このblogの概要やプロフィールでも好きなアニメをいくつか挙げさせて頂いていますが、一番好きなアニメを挙げろ、と言われれば、この装甲騎兵ボトムズをおいて他にはありません。アニメに限らず様々なジャンルの作品に範囲を広げても、巨人の星と並んで一番好きな作品はボトムズです。そんなこんなで下手なことは書けないという気持ちが強く、都合によりあまり時間もかけられないため難儀しています。


さて、この第01話、ふとボトムズに触れたくなったときにたびたび見返しておりますので、今回の視聴で六回目あたりになりましょうか。もはや音楽の入るタイミングから、台詞、絵の構図や動きまでほとんど把握してしまっています。思えば5年前、そのときもちょうど夏でしたが、ふとレンタルビデオ店ボトムズのビデオを手に取り、この第01話を視聴したときからずっとキリコ・キュービィに惹かれ続け、その生き方を自分の価値観に取り入れるようになったのだなぁ。第01話の時点でこのキリコというキャラクターについて語るのは不可能ですので、その生き様に関する記述は後の楽しみに取っておくとして、あえて未見の作品を鑑賞する際と同じように、本話について感想を記述したいと思います。


さてさて、始まってまず感じることは、本話において視聴者が状況を把握する上で有用な情報が何一つもたらされていないということです。プロローグによって視聴者が得ることが出来る情報は「ギルガメスとバララントがいつ終わるとも知れない戦いを続けていた」ことと「(一人称の主人公である)キリコが、戦って戦って戦い続け、もう疲れ果ててしまった」ことくらいです。前者は背景説明に過ぎませんし、サブタイトルの「終戦」からもわかるように、その戦争は終わりを告げようとしています。つまり、本作のプロットが「ギルガメスとバララントの戦争」を舞台にしたものではない以上、それによってその舞台となっているところの状況は把握出来ないのです。後者は重要なタームではあるのですが、現時点においてはまだ意味を成さないものです。Aパートにおいても視聴者に対してはキリコに対してと同様、その作戦の目的は知らされませんし、Bパートにおいてもわけもわからないまま拷問されるキリコと同じく、視聴者にも"素体"とは何なのか、それが何故重要視されるのかは全く知らされません。
つまり、キリコが訳もわからないうちに何かに巻き込まれてしまったのと同様に、我々視聴者にもその具体的な内容は明かされない、いや、キリコという男の来歴すらも知らされていない以上、我々はキリコ以上にこの作品世界に対する情報を所持していないわけです。
これは本作が、キリコの一人称的意識の非常に強い物語であることに由来するものでしょう。我々が何らかの物語を鑑賞する場合、主人公の目線での一人称視点と、神の目線での三人称視点が一定の割合で混合しているわけです。その混合によって特に際立つのは、(両義的な意味での)カタルシスだと考えますが、キリコは一人称視点においてだけでもそのカタルシスを体現できるほど、個性の強い、月並みな表現をさせていただくとすれば魅力的なキャラクターだと言えるでしょう(これは私が、一人称におけるカタルシスにより重点を置く価値観を持っていることにもよるのでしょうが。)。
むろんここで情報を与えられないというのは、昨今の視聴者に情報収集を強要するような(有体に言うと公式サイト等で設定を把握していないと視聴に耐えないような)作品とは明らかに異なるものです。キリコの一人称視点(もしくはたまに存在する二人称視点、やはり三人称の割合はあまり高くない気がします。)においてその世界観は確立されていき、我々は作品世界にのめりこむことができるのです。本話でもあたかもキリコになったかのように、何も判らない状況に対する不安やいぶかしさなどが共有できる、というのはいささか好意的過ぎる見方でしょうか。
そうして一旦は我々をキリコと同じ状況のなかに落としておいて、それでいてキリコに、常人では為し得ないようなスペクタクルを演じさせるところがまた凄い、キリコの一種ふてぶてしいとさえいえる雰囲気と、その大胆さや機転、何よりも具体的には言及出来ないのですが、他の作品の主人公が持っていないような何か、あえて言うならばストイックさ、に一発で男惚れしてしまいました。これがなければ今頃全然違った価値観で生きていたんだろうなぁ、とさえ思うくらいです。


終戦と同時にキリコの戦いが始まった」のと同様に、本話を始めて視聴したときから私の戦いが始まったとすら言えます。しかしこの第01話、改めて考えるといろいろな意味で得体の知れない話です。何一つ知らされることはないのに、それでいてめちゃめちゃ面白いですし、キリコにしても後の話から考えるとおしゃべりすぎるという違和感があるのに、そのストイックさは十分すぎるほど表現出来ていますし。


ロッチナの手を逃れたキリコを待っていたのは、また、地獄だった。破壊の後に棲み付いた欲望と暴力。百年戦争が生み出したソドムの街。悪徳と野心、頽廃と混沌をコンクリートミキサーにかけてぶちまけた、ここは、惑星メルキアの"ゴモラ"。次回「ウド」。来週も、キリコと地獄に付き合ってもらう。